ラヴェル『ボレロ』の不安作用について〜BS2・名曲探偵 アマデウス〜

お先生:皆様、ご機嫌いかがでしょうか?
桜も風と共に散り、はやく新ドラ始まらんかなぁ〜という今日この頃。
と、思っていたら、新聞で面白そうな番組を見つけました。
その名も『名曲探偵・アマデウス』。
「大都会の片隅に、よろずクラシック音楽の悩みを解消してくれる場所がある。
世に名高い名曲の神髄に迫り、秘められた謎を解き明かす、フシギな探偵事務所。
その名も『名曲探偵・アマデウス』。」
(以上、公式HPの謳い文句です)とな。
おおお!これは面白そうでないんでないの?
そして、なんと言っても第一回目に取り上げる曲が、
ラヴェルの超名曲『ボレロ』!
おおお!思い入れありますよ。トラウマありますよ。
ってことで、お齋藤さまにもご連絡して観てみました。


お齋藤:皆様、こんにちはです。
お先生より「面白かったから観て!」メールをいただき、
日曜のBS2再放送で拝見しました。
第1回目の事件は“謎の高校生失踪事件”。
ラヴェルの『ボレロ』を演奏する予定の吹奏楽部の男子部員たちが次々
失踪していく…という話。
…って、吹奏楽部だぁ?!
何を隠そう(隠していないけど)不肖お齋藤、中・高時代は吹奏楽部に在籍して
おりました故、また違った思い入れを通して観てしまいましたよ。
とりあえず、わたくしの中ではここ数年『ボレロ』は越年のテーマソングとして
定着してしまいましたが、お先生のトラウマとやらはなんですのん?


先:昔、話したことなかったかしらん?
私は超クラシック好きの母親の影響もあり、
当然胎教はクラシック、3歳からピアノを習い(なのにバイエルしか終わらなかった…)
初めてのオーケストラのコンサートは小2(寝たことは小3の時に本当に知らない曲で
詰まらなくて、という理由で一度だけ)という
ちょっと大人なクラシックライフを送っていたのですが、
小学生時代のある日のこと、突然『ボレロ』に嵌った母親が
夜、うちのオーディオで『ボレロ』をエンドレスに掛け始めたんです。
うちはオーディオがある居間にスピーカーが二つ(Aライン)、
そしてキッチンに一つ+私の部屋に一つ(Bライン)の合計3箇所で音楽が聴けるんだけど、
キッチンで聴くにはBラインにしないとならなくて、
私の部屋にも同時に聴こえちゃうのね。
で、夜中、親がキッチンにいながら『ボレロ』を聴くためにBラインにしたところ、
風邪かなんかで寝込んでいた私の耳ににあのボレロのリズムが……。
私は具合の所為で頭の中がグルグルしていたのもあって、
とにかくあの永遠と続くリズムとメロディが怖くて怖くて、
それがクレッシェンドでしょ。
余計に魘されちゃって、最後のフォルティッシモで飛び起きる、みたいな。
で、またレコードがリピートされ、あの小太鼓が始まるのよ……。
お母さんに、「もう止めてよ」って頼んだんだけど、
「これ良い曲でしょう〜♪」ってノリノリで無視され、
そこからまた2回くらい聴かされて、
最後は「お願いだから止めて!もう怖いからヤダ」と泣いて頼んだのよ。
で、「あら、駄目?」みたいな感じで、やっと止めてくれました。
あのちょっと不安にさせるメロディって絶妙よね。


齋:ひぇぇぇ。そいつぁ虎も馬も大群を成して襲ってくるってもんですな。
しかも音響効果は抜群だから、さぞやお身体に響いたことでしょう…。
ご愁傷さまでした。
わたくし、兼ねてからあのスネア(小太鼓)が終始奏でるリズムについて。
あまりにも大変そうだからと勝手に2人くらいが交代で叩いているもんだと
ばかり思っていたんですけど、ずっと1人でやっていたのよね…。
しかも聴き手もそうだけど、安定した1小節目〜次への期待を持たせるような
3連符で終わる2小節目とエンドレス(終わりあるけど)で叩き続けるなんて
可哀相だ。
リズム隊だから情感を込めちゃいけないかも知れないけど、あんな風に
気持ち高めといてまた平常に戻す…を繰り返す、だなんて、とても抑圧的な感じ。
まあ、あのフラストレーション溜まる感じの刻みが余計メロディのエロさ
(あえてこう書くけど)を際だたせているのかも知れないけれど。


先:私、『ボレロ』が与える不安って二種類あると思うの。
それは「演奏者」と「聴き手」に対するもので、
この番組では吹奏楽部で『ボレロ』を演奏することになって
あまりの難易度から部員が失踪って話しだけど、
聴いてる方にだって相当の不安と負担与えてると思うよ。
途中で失神する人がいたっていいくらい。
だから、年末のジルベスターで一度『ボレロ』をやっちゃうと
他のものが物足りなくなってしまう。
あの極限に達するまでの不安と緊張(演奏者も)と
一気にスパークした時の安堵と開放感。
これは味わってみないと分からないよね。
私はピアノ以外の楽器を演奏したことがないので
専らリスナーとしての立場だけど、
スネアやトロンボーンソロ、ファゴットなど
プロの演奏家でも緊張する難易度の高いこの曲で
お齋藤さまはどれを担当したくない?
ちなみに私だったらシンバルです。
なぜなら、最後まで出番がない上にボーッとしちゃって自分の番を忘れそうだし、
最後クレッシェンドしてゆくところで逆に緊張して
叩くタイミングを逃しそうだから。


齋:うーん。オーケストラか吹奏楽かでちょっと変わってくるかなぁ。
ボレロ』はやったことないのでわからないけど、オーケストラの曲を
吹奏楽に移すと、ヴァイオリンやヴィオラのパートを
クラリネット(わたくし、6年吹いてました)とかが受け持つんだよね。
で、『舐アマデウス』によるとそのヴァイオリンやヴィオラって
ほぼ延々と、弾かずにピッチカートをはじいている、と。
あれ、クラリネットで延々とやっているのも嫌だなぁ。
しかしトロンボーンソロの気持ちもわからないではない。
あと、ちょっと違ってピッコロ。
聴いている分には倍音効果でいい隠し味になっているけど、
実際吹いていると「あれ、ずれてない?!」と不安になりそう。
あ〜、そう考えると難しいわ…。


先:そうなの。ピッコロ!
ボレロ』を取り上げるって分かった時、
私の中ではなぜか「『ボレロ』やるならピッコロだろーー!」と思ったのね。
倍音効果もそうなんだけど、
あの曲ってピッコロの立ち位置なんか他と違うような気がするんだよねぇ。
なんか「プピーーー」って感じで聴こえちゃうの。
あと、一番初めにAメロを吹かないとならないフルートも緊張していて嫌だな。
番組ではファゴットの演奏者も失踪しちゃったんだけど、
ボレロ』のファゴットは通常演奏している音域よりも随分高いところを演奏しないと
ならないからとても難しいとか。
前回出てきたドリフのAちゃんは吹奏楽部でファゴット担当だったので聞いてみたところ、
やはり「低音出す方が楽だったな〜」とのこと。
そもそも管楽器で低い音を出す為のものなのに、
そこを2オクターブくらい高い音域で吹かせちゃうってのも、すごいよねぇ。
余談ですが『ボレロ』と言えばバレエ曲ですが、
モーリス・ベジャールが振り付けしたボレロを踊ることを許可されたダンサーは世界に僅かなんだよねぇ。


齋:トロンボーンファゴットへの無理強い(?)もまた、音の不安定さで魅了するんだろうね。
恥ずかしながら、わたくし『ボレロ』のバレエを観たことがないんだよね。
何となくマタドールの格好をした男性がいた気はするんだけど…。
Wikiであらすじを見たら、酒場で一人の踊り子が踊り出し、だんだん大きくなって、
周囲の者もその踊りに加わって…って、何だか不思議な感じで面白そう。
今度『愛と哀しみのボレロ』を観て勉強してみよう。


先:私は肌色系の全身タイツのようなものを着て踊っている姿しかイメージがありませんが。
あれは、上野水香だった。
あとジルベスターの時に一緒に踊っていた西島千博
こちらはイマイチで、途中、画面から消えていた気がする。
ちなみに、次回の名曲探偵は『ブラームス交響曲第4番』だって。
今のところピンとこないので、うちに帰ってちゃんと聴いてみないと。


齋:ブラームス…同じくピンと来ません。
本当に不勉強で恥ずかしいのですが、わたくし、通称もしくはフレーズで覚える性質なので。
余談ですが、先日安藤美姫がフィギュアで踊っていたサン=サーンスの『サムソンとデリラ』、
若かりし頃に吹いた思い出の曲です。
好きな曲なんだけど、それに費やしていたあの日々を思い返してしまい、素直に身をゆだねられない…。


先:吹奏楽部の人ってホントそうだよねぇ。
一度演奏した曲は当時の思い出が蘇ってきて、素直に音楽に浸れないって話聞きます。
その点、私は真逆で小さい時から難しい曲を聴きすぎて、
自分がやるピアノの曲がつまらなくて全然やる気がないという結果
バイエルまでしか進まなかった、と言い訳しておきます。うううっ。


齋:既に耳が肥えてしまっていたのね。それも可哀相な…。
家、あまり音楽に対しては興味がなくて、幼い頃は母親の好むグループ・サウンズ
オールディーズ、サイモン&ガーファンクルくらいしか聴かせてもらえないわ、
クラシックは皆無、という哀しい家庭だったもので、
ピアノやエレクトーンを習っていた、っていう話を聞くと心底うらやましいです。
左右同時に弾けないからクラリネット吹くときも苦労したなぁ…と
わたくしも言い訳させていただきました。
しかし、この番組何回やるんだろう?
民放だと1クール(3ヶ月)やってくれるけど、NHKは全5回とかであっさりと
終わらせちゃったりするからなぁ。
できれば長く、色々な曲を教えていただきたいものです。


先:枠としては『迷宮美術館』の後だから、それなりに長くやるものと思われます。
それに、『のだめ』もあったりで、今はクラシックブームだから、
NHKがこれを逃すとは思えないよ。
ま、有名無名に係わらず面白い選曲をして欲しいものですな。