『天河伝説殺人事件』(※ネタバレ含みます)

お先生:さて、今回は前回の予告通り、
内田康夫原作・浅見光彦シリーズ『天河伝説殺人事件』について語りたいと思います。

思い起こせば、十数年前、何を思ったか中学生のころ同級生と劇場に観に行った
市川崑監督・榎木孝明主演の角川映画天河伝説殺人事件』。
もちろん、すでに火サスで大の浅見ファンであった私は
市川崑だから「絶対に怖いはず!(?金田一の影響)お母さんは行きません」と云う
親を尻目に「じゃ、友だちと観に行ってくるも〜ん」と意気揚々と出かけ、
大変な衝撃を受けて帰ってきたのでした。
思えば、親に夜、何の予告もなしに突然連れられていって観させられた
ラストエンペラー』以外映画館で初めて大人の映画を観たわたくし。
いやいや、一徳、神山繁日下武史、そして絶世の美女、岸恵子など
市川組とも呼べる大人の出演陣たちの濃厚な演技に口はあんぐり、
涎を垂らし…とまぁ、兎に角、今でも印象が強く残っている映画でございます。

しかし、この映画が今後のわたくしの人生に大きな影響を齎したことの要因は
一にも二にも、能楽との出会いでしょう。
わたくしはこの映画がきっかけで能というものを初めて目にし、
たった一瞬で完全に虜になってしまったのです。
うちに帰って母にそのことを伝えると、母は大変驚いていました。
なぜなら、わたくしには能のDNAが組み込まれていたからなのです。
わたくしがその存在すらも知らなかった祖父が実は能面の面打ちだったという
衝撃の事実!!
おお!これは大映ドラマを地で行くような展開っ!!
それからわたくしは自分の能に対する気持ちに確信をもち、
中坊ながらも能を観に行ったりして、運命の人、梅若六郎様と出会い、
今に至る、ってな状況なんでございます。
まぁ、掻い摘んで話しましたが、わたくしには思い入れが深いなんて言葉じゃ
簡単に片付けられない映画なんですよ。
お齋藤さまはよ〜くご存知のことと思いますが。
で、どうだったよ?今回のドラマ化は。


お齋藤:いやはや、お先生ったら少女時代からおきゃんなんですから。
わたくしはあまり火サスを観させてもらえなかったので、
初浅見・内田作品だったなぁ。
なので、どちらかというと【新・金田一シリーズ】という位置づけだったかも。
その点ではお先生のご母堂さまと近い印象ですね。
しかし、榎木浅見の飄々としたところや、お先生の仰るように出演陣の重厚な
演技、天河村の自然…夢中にならないはずはございませんよ!
とりあえず、未だに主題歌『天河伝説殺人事件』と中森明菜の『二人静』は
台詞も含めソラで歌えます、たぶん。
…そんな作品のドラマ化…ちょっと恐れてはいたんですがね。
何より、何故今回【浅見光彦伝説】と銘打ち、3週連続にしたのか教えて欲しい。
こんな乱れ打ちのやっつけ・恣意的な改悪にすることはなかったんじゃないかね?


先:♪添い寝して永遠に抱いていてあげる〜
お齋藤さま、中森明菜を書くのなら、ちゃんと関口さんの名も出してあげないと!
あ、そういえば、わたくしがどれだけ天河フリークかと申しますと、
数年前、念願叶って天河神社へ行き、五十鈴を買ってきたくらいです。
大変だったよ。天河へ行くの。遠かった。
本当、重要人物の岸恵子に当たる役がずっと発表されなくて心配していました。
これを誰が演じるかはドラマの出来を大きく左右しますからな。
で、これを演じたのが黒田福美……。どうよ?!


齋:関口さんは…どうしても現状を思い出すとせつなくなるので書かずにおいたのです。
でもC-C-B時代といい、素敵なときは素敵でしたわよね、関口誠人
しかし黒田福美とは意外でしたな。明らかに山口いづみと同世代じゃないっての!

しかも東根作寿英(珍しく非・犯人)の母とは思えない設定、外見。
わたくしたちが製作発表時から固唾を飲んで見守ってきたのはなんだったんでしょうね。
まあ、トドハンター唐十郎を際だたせるための苦肉の策だったんでしょうけど
それにしてもなぁ…。


先:際立たせなくとも際立っちゃうのにね、紅テント。
しかも、誰も能の舞手とは思えないような所作だし。
しかし、東根作、ここでも出てくるとは。
私はほぼ100%であなたの出演作を観ていますよ。
というよりも、私が観る番組にあなたが出てくるのですが。
映画では唐さんの役をやっていた神山さんが今度は宗家の役で
しかも殺されちゃうし。
黒田福美もなぜか雨降らしの面を抱いたままつり橋から飛び降りちゃったり、
唐さんは変な踊りを踊りながら森へ消えてっちゃうし、と
浅見家以外の登場人物で残ったのは山口いづみお母様と田中美里のみと云う。
お、今WIKIで調べたら、山口いづみ黒田福美は2歳違いですぞ!
ちなみに東根作とは16歳差、18歳差です。無茶するなぁ。


齋:え…(絶句)。それはそれは…山口さん、ごめんなさい…。
なんとなく黒田と東根作は同じ匂ひ(2サス臭?)がするものだから同じくらいと
思ってたけど よもや一回り以上違うなんてねぇ。
回想シーンの若作りは市川作品の無茶ぶり(『犬神家』三姉妹、『女王蜂』仲代)を
彷彿としましたわ。
今回、観終わって思ったことは「いづみさんの一人勝ちだなぁ」ということ。
嫁いでから此の方、我慢した甲斐があって良かったねぇ。


先:能好きの私と致しましては、
映画ではあんなに盛り上がった『道成寺』部分が相当おざなりで
客席の浅見親子にばかりパーンされて、
落ち着いて観られなかったのが残念でした。
しかも、舞手は出演者にあわせてしっかり顎の細い若めの人を起用していましたが、
その分迫力もありませんでした。
しかもさー、今回、一番おかしいと思ったところは
映画では『道成寺』を舞うのは宗家の予定だったので
宗家を狙った犯人が誤って和鷹を殺してしまい
宗家が倒れた!と思って駆けつけた弟子たちが、面を取って始めて
宗家の実力と同等に『道成寺』を舞っていたのが和鷹だということが分かったという
衝撃と悲劇性を伴った大事なシーンだったのに、
初めから『道成寺』を舞うのが和鷹と分かっている上に
何年か前に犯人が面に塗った毒で死ぬなんて間抜けですよ。
悲劇性も何もない。
しかも、最後のテロップで能監修が『梅若六郎』って出ていて
私は、なお一層悲しくなりましたよ。


齋:運命の人をまた、このような形で見てしまうとは…ご愁傷様です。
しかし、わたくしも“時間差毒殺”にはポカーンでしたよ。
「空気にはあまり触れていないから毒性が弱まらなかった」のか?
それと事件の発端の新宿・五十鈴毒殺事件の際だって、
どー考えても即死!な量の毒をそのまま飲み物に入れているし。
監督には毒の概念がないのでしょうか?
そういえばざっくり過ぎて和鷹の恋愛もばっさり切られていましたね。
母の代からの悲恋がまた強調されるってものだったのに…。


先:そうだ、そうだ!そんなのあったねぇ。
でも、東根作だからねぇ。
過去シーンで黒田福美と絡むだけで精一杯でしょう。
新宿の五十鈴事件はホント、唐さん入れすぎだってば!!って
テレビに向かって突っ込んじゃったもんね。
同じ2時間なのに何故こんなに中身が違ってしまったのか。
最後の内田夫妻の登場シーンもアイタタタでしたわ。
ちなみに、映画には金田一耕助こと石坂浩二さんが陽一郎兄さんでしたな。
懐かしい。お齋藤さま、他に言っておきたいことは?


齋:な、何でしょうか…。何だか引導を渡されたようだわ。
まあ、内田夫妻というか、ニン…いや、伊東四朗演ずる内田センセもなぁ…。
伊東は好きだけど、あの軽さじゃ小倉久寛編集長とキャラがかぶっちゃうよ。
そうそう、映画版浅見が陽一郎兄さんとして今回のドラマに出ていたけど、
原作と違いアグレッシヴに天河まで来ちゃったのは映画へのオマージュかしら?
何せ番宣段階で“浅見光彦作品 最高傑作(うろ覚え)”と大々的に謳っていたのに
出来があれじゃあねぇ…。時間延長すらなかったし。
考えてみれば、あの枠ってマッチさんに岡部警部やらせていたりと
ちょっと内田作品に甘えている気がします。
岡部警部は松村雄基さまで然るべきです!


先:最高傑作なのは内田康夫が書いた浅見光彦シリーズの中でであって
このドラマがではないと思いますよ。
製作側も間違えちゃったのだよ。
ちなみに私が言ったのは本物の内田夫妻。
なんか浮いていて可哀想でした。
まぁ、今回は唐十郎に重きを置いたために
あのストーリー変更、演出になったのだ、
ということにしておきましょう。
ではお齋藤さま、まとめて。


齋:おぉ、まとめるなんて大役だわ。
本物の内田夫妻が浮いちゃったのは仕方ないです。
初代・市川『犬神家…』の横溝夫妻だって然り。
変に中谷彰宏みたいに馴染むのもちょっと、ね…。
まあ、今回は戦う相手が偉大すぎた(映画版)ってこともあるし、
もしまたドラマ化されるとしたら、次は色々な面で納得できる作品に
なるよう祈りつつ、今日はこの辺で。
ご静聴ありがとうございました。